今回は、マーケティング戦略の立て方を説明していきます。
近年は、スマートフォンの普及により、消費行動における顧客の情報収集および購買のあり方が大きく変化しています。デジタル・非デジタルとマーケティングの手段(施策)も顧客ニーズが多様化し購買行動も複雑になっている中、自社の経営資源=リソース(ヒト・モノ・カネ・情報・時間)でおこなえるマーケティングの施策は限られています。
だが、多くの事業者において、他社などの成功事例などの情報のみから、施策(HP、ECサイト、SNS、SEO、ブログ、動画、広告、Googleマイビジネス、口コミなど)を片っ端から試してみるが、自社にとっての最適な施策となっておらずに、適切なマーケティングをおこなえていないケースが散見されます。もちろん、他社の成功事例を真似することは決して悪い事ではありませんし、事業単位ごとなどでは真似した事で上手くいくケースも多いかもしれません。
しかし、他社と比べて事業環境やサービス内容・対象となる顧客、さらに経営理念・ビジョンも異なるため上手くいかないケースが多いのは当然であるといえます。同じ業種といえど、全て違うにも関わらず、他者(他社)の真似をすることでトンチンカンな施策を打ち、自滅していくというのが、実際のところなのです。
そして、全ての顧客(新規・既存・ロイヤルカスタマーなど)が大事、全ての施策が大事、などといいうものは経営資源がいくらあっても足りませんし、戦略とは呼べないのではないでしょうか。
これらのことから、マーケティングの全体像を俯瞰して検討し、限られた経営資源の中で、適切なマーケティングをおこない、自社がなぜこの施策をおこなっているのかを論理的に考えられるように、マーケティング戦略の立て方について説明していきたいと思います。
目次
マーケティングの基礎
マーケティングとは
マーケティングとは、売れる仕組みを作ることです。具体的には、「誰に対して」「どのような価値を」「どのような方法で提供するのか」について考えることです。
定義は様々ありますが、公益社団法人日本マーケティング協会は、マーケティングについて次のように定義しています。
マーケティングとは、企業および他の組織がグローバルな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動である。
引用:公益社団法人日本マーケティング協会
マーケティングの歴史
マーケティング概念が、マーケティングの権威者フィリップ・コトラー氏によって体系化されてから、現在に至るまでのマーケティングの歴史と進化について図1にまとめました。
※マーケティング 1.0から4.0とは、フィリップ・コトラー氏によって付けられたマーケティングの概念です。
それでは、それぞれの時代のマーケティングについて簡単に解説していきます。
マーケティング1.0:製品中心の考え方(製品中心) =マスマーケティング
1950年代は、モノが不足しており、産業革命をきっかけに、作ったら作った分だけ売れる大量生産・大量消費の時代でした。そのため、製品を作ったこと、販売していることを消費者に周知する活動がマーケティングの中心でした。
マーケティング2.0:消費者中心の考え方(消費者志向)
石油ショックにおけるスタグフレーション(景気停滞とインフレーションが同時進行する現象)をキッカケとし、消費者の買い控えが起こったことにから、この概念が生まれました。1970年代になると世の中にモノがあふれるようになり、消費者がモノやサービスを選ぶ時代へと変化しました。それにより企業では「消費者が欲しているモノやサービスとは何なのか」を意識する消費者志向のマーケティング活動が行われるようになったのです。
マーケティング3.0:人間中心の考え方(価値主導)
1990年代からはインターネットが普及し始め、消費者が自ら情報を入手できるようになりました。それにより企業は、「商品を作って売るだけの存在」から、「社会と顧客と良い関係性を築く存在」が求められるようになり、消費者に製品やサービスを通して「価値」を提供することということを意識するようになったのです。
マーケティング4.0:自己実現の考え方(自己実現)
2010年代になり消費者の物質的欲求が満たされ、SNSの普及により、承認欲求が簡単に満たされるようになったため、現在では自己実現欲求を求めるステージであるといえます。商品やサービスを通して、「自己実現欲求」を満たす価値を提供する。顧客の理想とする価値感と、企業が提供できる価値観が合致するかが重要となりました。
今後、さらに人工知能(AI)や自動化が進むにつれて、世の中は便利になりますが、その時に人は自分の現状に対して、自分らしくいれること・自分の高めることができる場所などを求めるようになるかもしれません。
(参考)マズローの欲求5段階説
「マズローの欲求5段階説」とは、心理学者アブラハム・マズローが「人間は自己実現に向かって絶えず成長する生きものである」と仮定し、人間の欲求を5段階に理論化したものです。人間には5段階の「欲求」があり、1つ下の欲求が満たされると次の欲求を満たそうとする基本的な心理的行動を表しています(図2)。
コトラーは、人間はすでに「生理的欲求」「安全欲求」「社会的欲求」「承認欲求」までの段階は既に満たされていると唱えています。そのため、「自己実現」の欲求こそが人間が本来満たすべき欲求であり、現在のマーケティング施策も「自己実現」に焦点を当てるべきだと提言しています。また、この説はマーケティング以外の様々な面(経営学では組織構築など)で応用できるものです。
経営戦略とマーケティング戦略の関係
企業においてマーケティングは、大きな視点で市場を捉え、企業経営に役立てていく機能を担っています。企業は経営理念という枠組みの中で、外部環境と自社の経営資源を考慮しながら戦略を策定していきます。
特に外部環境(市場)は日々変化し、市場から拒否された企業は収益を確保できなくなります。そのため、市場の構造的変化をいち早くキャッチし、企業の進むべき方向性を見出し、経営戦略や事業活動に落とし込んでいく役割を果たすのが、マーケティングです。
マーケティング戦略は全社戦略、あるいは事業戦略やブランド戦略に沿った形で、策定・実行しなくてはいけません。このことから、単純にマーケティングの観点のみで判断することはできず、全社戦略との整合性という文脈で考える必要があります。
企業の戦略は通常、経営理念とビジョンを上位概念とし、それに沿って全社戦略、事業戦略もしくはブランド戦略、機能戦略という階層構造をとっているものですが、マーケティング戦略もそれと同じような構造となっています。
つまり、全社レベル、事業レベル、製品レベルなど、それぞれのレベルでマーケティング活動が行われているのです(図3)。
個々の製品・サービスごとでは最適なマーケティング戦略であっても、事業単位あるいは企業全体で見たときに、営業組織との連携がとれていない、製品・サービスごとにネーミングや付帯サービスにばらつきがあるなど、機能の重複や不整合が生じやすい。
そこで、事業レベルあるいは全社レベルでマーケティング方針を決定することで、シナジー(相乗効果)を働かせながら製品・サービス間の調整を図っていく必要があります。
全社レベルのマーケティング戦略では、さらにコーポレート・ブランディング など、会社全体に関わる事柄を担います。
事前に「6W2H」を簡単にでも纏めておくことで、戦略策定がスムーズになります。
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マーケティング戦略策定プロセス
マーケティング戦略を策定は一連のプロセスをたどります。ここでは、戦略策定プロセスを大きく次の5つのステップ(➀環境分析→➁マーケティング課題の特定→➂ターゲット市場と自社の位置付けを決定→➃戦略の決定→➄実行計画の策定)に分けることにします(図4)。
これらは通常の戦略策定の流れとほぼ共通していますが、マーケティング特有の視点が含まれる➀~➃の各論について詳しく触れていきます。
➀環境分析
図5は、自社を取り巻く環境を示したものです。
環境分析とは、事業に影響を与える可能性のある外部環境・内部環境の様々な要因の分析を通して、市場にある機会と脅威を把握するとともに、自社の強みや弱みを再認識し、自社にとっての市場機会の発見(戦略の方向性)を探ることにあります。
めまぐるしく移り変わる環境変化を敏感に察知し、自社の強み・弱みを再確認し、柔軟に対応するためにも、マーケティング環境分析は不可欠です。
環境分析は大きく「外部分析」と「内部分析」に分けることができ、内部・外部環境を的確に分析することで、はじめて具体的なマーケティング戦略を検討するための準備が整います(表1)。
外部環境は、自社を取り巻く外側の状況のことで、大きくミクロ環境とマクロ環境があります。
マクロ環境とは、広く全体的な視点から捉えることであり、事業の外部環境のうち、企業にとって統制不可能、つまり業界内の各企業とは無関係に起こっているものをいいます。
具体的には、政治的(Political)環境、経済的(Economic)環境、社会的(Social)環境、技術的(Technological)環境の四つです。一般的には、「PEST分析」というフレームワークで分析をおこないます。
ミクロ環境とは、マクロよりも絞った領域として使われていて、コントロールしようと思えばできる顧客(市場)、競合や流通、自社になります。一般的には、「3C分析」というフレームワークで分析をおこないます。
内部環境とは、自社に関する情報のことであり、当然コントロール可能な要因です。一般的には、「SWOT分析」というフレームワークで分析をおこないます。
外部環境 | マクロ環境 | 政治、経済、社会、技術 | コントロール不可能要因 | PEST分析 |
ミクロ環境 | 顧客、競合他社、流通 | 準コントロール可能要因 | 3C分析 | |
内部環境 | 自社 | コントロール可能要因 | SWOT分析 |
PEST分析:外部環境分析(マクロ環境)
「PEST分析」とは、「政治・法律(Political Environment)」「経済(Economic Environment)」 「社会(Social Environment)」「技術(Technological Environment)」の頭文字をとって命名された分析手法で、この4つの側面から事業を取り巻く外部環境(マクロ環境)を分析します(図6)。
具体的な項目例は以下になります。この項目を自社のビジネスにとってプラスの影響にになるのか、マイナスの影響になるのか、という視点で洗い出し、評価していきます。
- P(政治・法律):法規制の変化・ビジネス関連の判例・税制の変化・政府の成長戦略・業界団体同行・紛争問題など
- E(経済):景気動向・株価動向・価格変動・業界再編の動き・為替動向・金利変動など
- S(社会):人口動態・世論/空気・社会的意識・環境問題・気候変動・メディア環境など
- T(技術):技術革新・技術の普及・特許・新エネルギー・新インフラ普及・プラットフォーム
3C分析:外部環境分析(ミクロ環境)
「3C分析」とは、「Customer(市場・顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)」の3つの頭文字を取って命名されたもので、この3つの視点で分析し、事業成功のポイントを探るフレームワークです(図7)。
3C分析の具体的な項目は、以下となります。3つに分かれていますが、各要素は連動しているので、独立して考えるのではなく、全体像として捉えながら検討することがポイントです。
- Customer:市場規模/成長性、セグメント、ニーズ、構造変化など
- Competitor:寡占度、参入難易度、価格競争、強さ/弱さなど
- Company:シェア、ブランドイメージ、技術力、販売力、経営資源など
考える上での重要な問い
顧客
- 自社の現在や将来の顧客は誰なのか
- 顧客はどんなニーズを持っているのか
- 何が購買の決め手になっているのか
- 市場はどのような構成になっているのか
- しじょうの規模や将来性はどれくらいあるのか
競合
- 自社のライバルはどこなのか
- ライバルたちの強みと弱みは何なのか
- ライバルは業界をどう見ているのか
- ライバルたちは顧客からどう見られているのか
- 新たに脅威となるところはないのか
自社
- 自社は何を目指して事業をやっているのか
- 自社の強みと弱みは何なのか
- 勝ちパターンと負けパターンは何なのか
- ビジネスの資源を十分に持っているのか
- 事業を進めるのに適した組織になっているのか
SWOT分析:内部環境分析
「SWOT分析」とは、強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)の頭文字から命名されたフレームワークです(図8)。
「内部環境⇔外部環境」と「好影響⇔悪影響」の2軸で構成されるマトリクスを作成し、「強み」、「弱み」、「機会」、「脅威」の4象限について分析をおこないます。
内部(ヒト・モノ・カネ)と外部(PEST分析・3C分析)、そしてプラス面とマイナス面の両方に目を向け、「事実情報を解釈」し「戦略目標」を絞り込みます。
尚、SWOT分析をおこなう際には、弱みを強みに変えたり、脅威を逆に機会にできないかとポジティブに捉え、自らの市場機会に繋げる姿勢が望まれます。
自社にとっての市場機会の発見
環境分析では、事業に影響を及ぼす内外の様々な要因によって構成されるマーケティング環境の分析を通して、市場の機会と脅威を整理するとともに、自社の強みや弱みを認識します(図9)。
そして、起こっている事象をもとに現状を正確に把握し、必要な情報を取捨選択し、それらを深い洞察力で解釈することにより、市場機会の発見や、マーケティング戦略の方向性を明らかにしていきます。
➁マーケティング戦略課題の特定
マーケティング戦略策定に必要な環境分析をおこない、マーケティング課題を洗い出したら、今回取り組む課題とマーケティング目標を明確にしていきます。
市場の機会と脅威に、自社の強みと弱みを重ね合わせることで、自社にとっての市場機会が見出されます(➀環境分析)。
その機会を捉えてうまく活用するためには、以下の手順でおこないます。
環境分析後すぐに詳細な市場分析や具体的な施策の検討に移るのではなく、マーケティング活動を通して何を実現したいのか(マーケティング目標)を、今一度明確にしておきます。
その手順としてはまず、環境分析で整理した機会や脅威、自社の状況を念頭に置きながら、自社にとっての課題を洗い出します。
次に、自社の経営方針、経営資源、事業特性などに起因する制約条件を整理し、洗い出した課題をそれぞれの重要性を勘案しつつ優先順位を考えます。
そして、優先的に取り組むべき課題やマーケティング目標を設定していきます。
これ以降の戦略策定プロセスでは、ここで特定した課題や目標をにらみながら、最も効果的だと思われる施策の検討を進めていくことになります。
そのため、このステップを踏むことで、課題を克服するための施策(➃戦略の決定で4P)が考えやすくなり、その有効性も高まります。
➂ターゲット市場と自社の位置付けを決定(STP分析)
マーケティング課題を特定し、自社に適したマーケティング機会を発見したら、その市場にどのようにアプローチするかを検討していきます。
通常は「STP分析」によりおこない、マーケティング戦略の要となるプロセスで、環境分析やリサーチから導いた方向性に戦略性(攻略のシナリオ)を考える段階になります。
「STP分析」のSTPとは、セグメンテーション(Segmentation)、ターゲティング(Targeting)、ポジショニング(Positioning)の頭文字を取ったフレームワークで、この3つの要素からマーケティング戦略を考えます。
セグメントとは、同じ属性や特性、ニーズなどを持つ集団を表し、セグメンテーションとはその集団の分類を細分化することです。セグメンテーションで市場を細分化し、ターゲティングで狙う市場を決め、ポジショニングによって提供する価値を決めていきます(図10)。
特定のセグメントに絞り込むことは、限られた経営資源を有効に使うためでもあり、その後のマーケティング施策の展開や売上げ、収益性などに大きな影響を与えるので、自社や競合他社、市場環境を踏まえて戦略的に意思決定する必要があります。
セグメンテーション(Segmentation)
どんなに良い製品であっても、市場全体を相手にしていたのでは、経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報・時間)は尽きてしまいます。
そこで、不特定多数の消費者を、マーケティング戦略上、同質として差し支えないと判断される小集団に分ける(セグメンテーション)します。
そして、一定のマーケティング活動と同じように反応する特定のセグメントに照準を合わせて(ターゲティング)をおこない、マーケティングの資源を集中投下していきます。
セグメンテーションごとの分類する際、どのような項目でグループ分けするかの切り口は、主に以下の4つのセグメンテーション変数でおこないます。
- 地理的変数(ジオグラフィック):地域、都市規模、人口密度、気候、政府による規制、文化 など
- 人口動態変数(デモグラフィック):年齢、性別、家族構成、家庭のライフサイクル、所得水準、職業、学歴、宗教、人種、国籍 など
- 心理的変数(サイコグラフィック):ライフスタイル、性格(パーソナリティ)、社会的階層、価値観、購買動機 など
- 行動変数(ビヘイアビル):購買経験、購買契機、使用頻度、購買パターン、求めるベネフィット、ロイヤリティ、製品・サービスへの態度 など
ターゲティング(Targeting)
セグメントがいくら魅力的でも、自社の経営資源の制約などから適切なマーケティングが実施できないのであれば、そのセグメントを選ぶべきではありません。
また、自社の強みと弱みを評価し、そのセグメントにおいて自社が優位性を発揮できるかどうかを検討することが重要です。
市場全体に均等にアプローチするのか、容易に参入できそうなところから攻めるのか、市場攻略のやり方を考えていきます。尚、ターゲットとするセグメントは、その事業が成立する最低限の規模を獲得できなければいけません。
設定するターゲットが適切かどうか判断する際は、ターゲット選定の条件(判断基準)である「6R」を意識しましょう。
6Rとは、Realistic scale(有効な規模)、Rank(優先順位)、Rate of growth(成長率)、Rival(競合)、Reach(到達可能性)、Response(測定可能性)の頭文字を取った指標です。
- 有効な市場規模(Realistics Scale):市場が大きい方がよい。市場が小さくもよいが少なくとも事業が成立する最低限の規模を確保できるセグメントが必要。
- 成長性(Rate of Grows):一般的に市場の成長段階や成長初期には、売上やシェア獲得の大きなチャンスがあります。
- 競合状況(Rival):規模や成長性だけではなく、魅力的な市場は競争が激化するため、開発やマーケティングコストを加味して、収益性を考慮する必要。
- 顧客の優先順位/波及可能性(Rank/Ripple Effect):セグメントごとに重要度の検討をおこない、優先順位を付ける方がよい。
- 到達可能性(Reach):たとえ魅力的なセグメントであっても、地理的に遠かったり、顧客リストを入手できなかったり、有効な情報伝達手段がなかったりすると、適切なマーケティング活動ができないため、確認しなくてはなりません。
- 反応の測定可能性(Response):セグメントに向けて実行した施策の有効性を測定し、検証できるかどうかも、セグメント選定に重要。
自社資源を有効活用し、自社が狙う対象層に競争優位に結びつく価値提供をしていかなければならない。そのためには、「どのようなアプローチで市場を攻略するか」「自社にとって最も魅力的なセグメントはどこか」を明らかにしなければいけません。
そこで、ターゲティングでは、市場を攻略するために、以下の3つのアプローチがあります(図11)。
- 無差別型
1つの製品と1つのマーケティングミックスを用い、市場全体、あるいは最大のセグメントをターゲットとする、マスマーケティングの手法。大企業が用いる手法。
コストは抑えられますが、競合他社との価格競争になりやすいほか、最大セグメントの平均化されたニーズしか満たせないため、市場機会も逃すことが多い。 - 差別型
複数のセグメントにそれぞれ異なる製品・サービス、マーケティングミックスを用意するフルライン戦略。
細かなセグメントごとに製品・サービスを提供することでトータルの売上高を最大化できますが、それぞれのセグメントへの対応が必要なためコストは増大します。 - 集中型
特定のセグメントに特化し、そこに全経営資源を集中して独自の地位を築く戦略。
規模の拡大は追いにくいですが、集中することで、そのセグメントに対する知識が深まり専門性が高まり、競争優位性の確立が期待できます。
この手法は、中小企業のような企業体力が小さく、差別化戦略をとりにくい場合によく用いられます。
ポジショニング(Positioning)
ポジショニングの目的は、ターゲット市場において、自社製品・サービスが競合製品・サービスより相対的に魅力的であると顧客に認知してもらうことにあります。
顧客ニーズを十分に認識した上で、競合が強い地位を占めておらず、差別化できるポジションを見つけ出していきます。
そのためには、競合との違いを認識できる2つの軸を設定して、「ポジショニングマップ」を作成します。
図12、は「高価格⇔低価格」と「機能性⇔デザイン性」の2軸で作成し、「高価格帯・高機能」の市場に競合他社がおらず、市場の成長性も高いと判断したことから、自社の強みである専門性の高さを活かして「高価格帯・高機能」に市場ポジショニングを決定したという粗く簡単な例です。
以下は作成時の注意点です。
- 相関関係がない軸を組み合わせる:単純に価格軸(高い/安い)と機能軸(高い/低い)を組み合わせると斜め一直線に並んでしまうため
- 製品特性にこだわると機能本位となる(ターゲット顧客のニーズを考える)
- 消費者に強く訴求できる特徴は2つ程度として多くの指標で比較しない
- 自社製品・サービス間のカニバリゼーションを防ぐ
- 市場シェアを「○」の大きさに反映させる
(参考)バリュープロポジション
バリュープロポジションとは、直訳すると「価値提案」のことであり、「顧客が求める価値」「自社が提供できる価値」「競合が提供していない価値」が重なる領域を見つけ、この領域を意識して開発を行っていくことです(図13)。
環境分析の「3C分析」や「STP分析」を踏まえ、バリュープロポジション(顧客ニーズに対して⾃社のみが提供できる価値)を見つけることにより、顧客に対して「あなたが必要とするものを 競合他社よりも⾼い価値で提供できる」ことがPRできます。
➃戦略の決定(マーケティングミックス・4P分析)
戦略の決定には、一般的にマーケティングミックス(4P分析)でおこなっていきます。
マーケティングミックス(4P分析)とは、構成要素である製品・サービス(Product)、価格(Price)、流通・チャネル(Place)およびプロモーション(Promotion)の頭文字から命名されたフレームワークです(図14)。
ターゲット市場においてマーケティング目標を達成するために、コントロール可能で有効な製品・サービス戦略、価格戦略、流通・チャネル戦略、プロモーション戦略をいかに組み合わせ、実行していくかを決定していきます。
4Pは、現代マーケティングにおける最も重要な概念といえます。
それは、どんなに魅力的な製品でも(製品戦略)、その情報が顧客に正確に伝わらなければ(コミュニケーション戦略)、販売には結びつきません。
そして、その製品がどこで手に入るのかがわからなければ(流通戦略)、購入しようにもできません。
また、顧客が店頭で製品を手に取ったとしても、その価格が期待していたものと大きく異なっていたなら(価格戦略)、購入を断念してしまうためです。
4Pを検討する際には、それぞれを個別に扱うのではなく、各要素を上手く組み合わせてマーケティング目標を達成することがポイントとなります。
4Pの各要素は独立したものではなく、互いに関連しあっているためです。
例えば、価格戦略は低価格とする一方で、プロモーション戦略では、膨大な広告投資を続けるというような組み合わせでは、整合性を欠き、企業の健全な成長の阻害要因ともなりかねません。
決定したターゲット顧客およびポジションを踏まえながら、4つの要素が整合性を持つように、トータルな視点で検討していく必要があります。
主に、以下の項目を検討していきます。
製品・サービス戦略(Product)
機能、性能、品質、デザイン、特徴、ネーミング、ブランド、パッケージ、大きさ、サービス、保証、サポートなど
価格戦略(Price)
定価、標準価格、実売価格、小売価格、卸売価格、粗利、代理店価格(仕切り値)、販売条件、契約条件、値引き条件、支払い方法(前払い、CoD、後払い)、支払い期限、など
流通・チャネル戦略(Place)
販売場所(店舗、eコマース)、流通チャネル(直販、代理店など)、販売エリア、運送、範囲、ルート、リードタイム、品揃え、返品、在庫管理など
プロモーション戦略(Promotion)
広告宣伝、販売促進、営業、PR、ダイレクトマーケティング、オンラインマーケティング、プレスキット、展示会、サンプリング、口コミなど
※プロモーションミックスで相乗効果を目的として計画する
プロモーションミックスとは、プロモーションの手段である、プル戦略に分類される「広告」「パブリシティ(広報)」、プッシュ戦略に分類される「人的販売」「販売促進」があります。これらをいかに効果的に組み合わせて実行すること。また、近年はツールとして「SNS」も加えられています。
4Pはマーケティングを実行する上で、必要最低限の基本項目です。そして、この4項目を競合と比較検討するだけで、自社の強みや弱みが見えてくる便利なツールです。
とはいえ、4Pは開発されて50年以上経つフレームワークなので、いくつか補足して考える必要があります。
サービス業においてのマーケティングでは、4Pに加えて、人・参加者(People)、プロセス(Process)、物的環境・証拠(Physical evidence)の3Pを追加した「7P分析」で考える必要があります。
また、4Pは企業(売り手)の視点に立っているため、顧客(買い手)視点を踏まえた「4C分析」も追加して比較検討する必要があります。
7P分析
サービス業では、次の5つの特性である、➀無形性(サービスには形がない)、②品質の非均一性(サービス提供者により質が異なる)、➂不可分性(生産と消費が同時におこる)、➃需要の変動性(需要が季節、曜日、時間帯で変動する)➄非貯蔵性(蓄えることができない)があるため、「7P分析」で、検討する場合があります。
「7P分析」とは、製品が主である4Pに加えて、人・参加者(People)、プロセス(Process)、物的環境・証拠(Physical evidence)の3Pを追加して検討することです。
人・参加者(Personnel)
- 顧客にサービスを提供する要員(スタッフ、協力者)
例:技能、態度、質、組織など
プロセス(Process)
- サービス提供方法
- 業務プロセス
- 方針と手順、生産・納期スケジュール、教育・報奨制度
物的環境・証拠(Physical Evidence)
- サービスが提供される環境
例:モノの配置、素材、形・ライン、照明、色、温度など - サービスが提供された証拠(サービスは目に見えないから、見える形に置き換える)
例:保険会社の保険証、レシート、会員証など
4P分析と4C分析
4C分析とは、顧客側の視点である顧客価値(Customer Value)、総合的コスト(Cost)、利便性(Convenience)、コミュニケーション(Communication)の頭文字から命名されたフレームワークです。
4P分析では「企業(売り手)」を主語にしてマーケティングを考え、4C分析では「顧客(買い手)」を主語にして考えます。そのため、顧客(買い手)の視点から、以下の項目を比較検討します。
- 顧客価値(Customer value):顧客にとっての価値・ベネフィット 顧客が価値(ベネフィット)をおくものがどこにあるか
- 総合的コスト(Cost):顧客が納得できるコスト(費用・時間)になっているか
- 利便性(Convenience):顧客が購入するまでの一連の流れ(予約、問い合わせ、決済など)がスムーズになっているか
- コミュニケーション(Communication):顧客に対して有益な情報を発信(店内POP、ブログ、SNS、交流会など)しているか
(参考)カスタマージャーニーマップ
4C分析は、顧客(買い手)の視点からマーケティング戦略を考えるというものであり、より深く顧客の行動を分析するためには「カスタマージャーニー」という考え方があります。
カスタマージャーニーとは、 直訳すれば「 顧客の旅」 ですが、 顧客の日々の行動や五感に触れる物事を、時系列に沿ってできるだけ具体的に想像し、 把握するという考え方です。
観察すべき顧客の行動を限定した上で、タッチポイントを洗い出し、どんな場面でどんな経験価値を顧客に感じてもらえそうかを可視化していきます(図17)。
➄実行計画の策定
ここまでに策定した戦略を、実行するステップです。
マーケティングミックス(4P)を実現していく際には、目標を明確にした上で、行動計画を策定し、その戦略シナリオに沿ってオペレーションやモニタリングの仕組みを整備して、PDCAサイクルを回していく必要がある。理由は、マーケティングでも他の企業活動同様に、PDCAのサイクルを回し、軌道修正の方向やタイミングを判断できるようにするためです。
PDCAサイクルとは、「Plan(計画)」「Do(実行)」「Check(確認)」「Action(改善)」それぞれの頭文字を並べた言葉で、継続的に仕事の品質を改善するときに用いるフレームワークです(図18)。
マーケティング戦略は作って終わりではなく、施策を実行するだけで満足せず、いかにPDCAを回し続けられるかも重要なポイントになります。
そのためには、具体的な目標、と具体的な行動計画が必要です。
目標を明確にする
予測損益計画書を作り、売上予測(販売個数や単価)、必要な費用、利益予測を明確にし、「いくらで」「どのくらいの数量を」「いつまでに売ればよいか」を具体的に決めていきます。
そうすることで、どのくらいのコストがかかり、かけれるのか。こうした点を明らかとなります。
その際には、目標達成期間(短期・中期・長期)、目標達成のアプローチや方針、目標設定の根拠を明確にしておきます。
目標を実現するための方法論は幾通りも考えることができ、その時々で場当たり的対応をして全体の整合性を損なう恐れがあるたね、適切な指標を設定していく必要があります。
重視すべき指標が定まったなら、できる限り数値化(売上なら量や金額、利益なら率や絶対額、シェアなら占有率と変化率)します。
そして、PDCAサイクルを回すには、KGI(Key Goal Indicator)はもちろん適切なKPI(Key Performance Indicator)の設定が欠かせません。正しいKPI指標のもとPDCAサイクルを回すことで、無駄の少ない施策を打ち続けられます。
(参考)KGIとKPI
KPIが業務プロセスを評価基準とするのに対して、KGIは企業全体の最終的な目標数値を指します。
- KGIとは「Key Goal Indicator」の略語で、「重要目標達成指標」と訳します。最終目標が達成されているかを計測する指標のことです。
- KPIとは「Key Performance Indicator」の略語で、「重要業績評価指標」と訳します。事業目標を達成するために実行すべきプロセスが、適切に実施されているかを数値化して評価するものです。
行動計画
戦略シナリオができれば、それに沿って行動計画(具体的なオペレーションも規定)を立て、実施状況をチェックするためのコントロールシステムを整備する。
PDCAサイクルを回す上で大事なことは、Planの段階で目標を明確にすることです。そこで、5W1Hを明確にしていきます。
「When(いつ)」「Where(どこで)」「Who(だれが)」「What(なにを)」「Why(なぜ)」「How(どのように)」を定めることで、「Check」の段階で正確に検証ができ、また目標の具体化でやるべきことや期限が定まることでモチベーションアップも期待できます。
マーケティング戦略を自社で取り入れてみよう
今回は、マーケティング戦略について網羅的にご紹介させて頂きました。
マーケティング戦略とは何か、またなぜマーケティング戦略を考える必要があるのかを理解する事も非常に重要ですが、最も重要なのはマーケティング戦略を実行することでしょう。
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