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療養費制度と請求の仕組みについて

施術ビジネス(治療院/整骨院/整体・リラクゼーション院/美容・エステサロン/トレーニング/リハビリ/デイサービス等)において、療養費に関わる国家資格である柔道整復師・あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師があるため、療養費制度・支給対象・請求方法について記載していきます。

 

療養費制度について

1)現物給付と現金給付

・現物給付(保険医療機関の医療)

医療を現物で給付する療養の給付のことで、患者は医療費の自己負担分を支払うだけで治療が受けられる制度(残りの費用は医療機関が保険者に請求)。

・現金給付(療養費)

療養の給付が行われなかった場合、保険者から被保険者(患者)に現金を支給する保険給付のこと。療養の給付を補完する特例的なもの。

2)療養費の原則

健康保険においては、疾病または負傷に対して、療養の給付、入院時食事療養費の支給または特定療養費の支給を行うことが原則です。しかし、療養の給付等を行おうとしても行うことができない場合もあり、そのため現金給付としての療養費支給の方法を認めたのです。
したがって、療養費の支給は、療養の給付等の補完的な役割を果たすものであり、被保険者に、現物給付と現金給付の選択の自由を与えたものではありません。

 

健康保険の医療給付は、保険医療機関において現物給付として、「療養の給付」を行うのが原則ですが、例外として現金給付として「療養費」の制度があります。そして、療養費は保険者がやむを得ぬと認めた場合に被保険者等からの申請により支給される「償還払い」が原則となっています(健康保険法第87条)。
しかし、医業類似行為である柔道整復・あはきにおいて、例外的に受領委任払いが以下の経緯で認められています。

  • 柔整療養費の場合、整形外科医が少ない時代に応急手当が必要となる場合の代替機能として、協定や契約を締結することにより、全ての保険者で自己負担のみで施術を受けられる「受領委任」になったという経緯があります。
  • あはき療養費の場合、本来償還払いでしたが、実際は被保険者の利便性のため、保険者が「代理受領」を認め、実質上柔道整復における受領委任と同様の取り扱いが広まっていました。しかし、この「代理受領」では地方厚生局の指導監督、施術所・施術管理者の登録がなく、行政の関与がなく、行政の関与がないために不正が起こる可能性があるという理由で平成31年よりあはき療養費にも受領委任の取り扱いが導入されました。

*あはき:国家資格である「あん摩、マッサージ、指圧師、はり師、きゅう師」の頭文字を読んだ省略語。

(参考)医業と医療類似行為について

医師法第17条では、「医師でなければ、医業をしてはならない」 とあり、「医業」、「医行為」、「医業類似行為」は以下の通りとなっています(表1)。

  • 医業とは、医行為を業として行うこと
  • 医行為とは、医師の医学的判断や知識をもってしなければ、人体に危害 を及ぼすおそれのある行為。具体的には、注射、投薬、検査結果の説明、手術、診断書の交付など
  • 医業類似行為とは、医師または医師の指示以外による治療行為のこと
表1:医業と医業類似行為
医科 柔道整復・あはき
業種 医業 医業類似行為
名称 保険医療機関 施術所
給付形式 療養の給付
現物給付
療養費の支給
現金給付

 

医業類似行為と国家資格

医業類似行為と国家資格の関係は表2となっています。

表2:医業類似行為と国家資格
法で認められた医業類似行為者については(国家資格、開業時に保健所に届け出が必要)
  1. あん摩、マッサージ、指圧師、はり師、きゅう師
  2. 柔道整復師(接骨師、整骨師、ほねつぎは同意語)
法に基づかない医業類似行為 (国家資格なし、保健所への届け出は不要)
  • 整体、カイロプラクティック、オステオパシー、キネシオロジー、リフレクソロ ジー、リラクゼーション、クイックマッサージ、アロマセラピー、エステ etc

 

 

療養費の支給対象

療養費の支給対象となる柔道整復・あはきの施術は表3となっています。また、療養費が支払われないケースは表4となっています。

  • 柔道整復:施術期間が3カ月を超える場合については、療養費支給申請書に長期理由を記載する必要がある
  • はり・きゅう:柔道整復と違い慢性痛を伴う疾患が対象
    ※主に6疾患であり、慢性病で医師による適当な治療手段のない場合のみ
  • あん摩マッサージ指圧:診断名ではなく「症状」に対する施術が対象。具体的には、骨折や手術後の障害や脳血管障害などの後遺症などが対象

 

表3:療養費の支給対象となる柔道整復・あはきの施術
疾患・症状
柔道整復
  • 急性又は亜急性の外傷性の骨折、脱臼、打撲、捻挫、肉ばなれ等。
  • 骨折及び脱臼については、医師の同意が必要。(応急手当を除く)
はり・きゅう
  1. 神経痛(病気の範囲が広いので、身体のあらゆる場所の慢性的疼痛に適用され得る)
  2. リウマチ(免疫の異常により、主に手足の関節が腫れたり痛んだりする病気)
  3. 頸腕症候群(頚部、肩関節、上肢の筋肉や靭帯から発生する痛み)
  4. 五十肩(40代~50代、希に60代にみられる肩関節の疼痛疾患)
  5. 腰痛症(特に筋肉、靭帯による疼痛で、症状は、腰の痛み・重だるさ・下肢への関連痛等)
  6. 頸椎捻挫後遺症(いわゆるむち打ち症の後遺症)
あん摩マッサージ指圧
  • 筋麻痺(筋肉がマヒして自由に動かせない状態)
  • 筋萎縮(筋肉が瘦せて筋力も低下した状態)
  • 関節拘縮(関節が硬くて動かしにくい状態

 

表4:療養費が支払われないケース(柔道整復・あはき)
柔道整復
  • 日常生活による単なる「疲れ」「肩こり」「腰痛」「筋肉痛」
  • スポーツなどによる「肉体疲労」
  • 医師が治療すべき椎間板ヘルニアなど
  • 脳疾患後遺症などの慢性病
  • 神経痛による筋肉の痛み(リウマチ・関節炎)の場合
  • 「骨折」や「捻挫」など原因があっても、数年前に治っている箇所 が自然に痛みだしたような場合
  • 症状の改善の見られない長期の施術
  • 医師の同意のない骨折・脱臼の施術(応急処置を除く)
  • 保険医療機関(病院・診療所など)で同じ負傷等の治療中の場合
  • 慰安目的のあん摩・マッサージ代わりの利用
あはき
(あん摩マッサージ指圧・はり・きゅう)
  • 医師の診察と施術への同意書がない場合(6ヶ月ごとに必要)
  • 慰安目的や疲労回復、予防目的
  • 保険医療機関(病院・診療所など)で同じ病気の治療(または医療上のマッサージ)をしている場合
  • 自宅での施術(往療)への保険適用は、自宅静養など外出が制限されている状況のみ。施術所に行くのが面倒といった理由では当然不可

 

療養費の請求方法について

療養費の請求方法には、「償還払い」、「受領委任」、「代理受領」の3種類がある。それぞれの請求方法の比較は表5となっています。

償還払いは、患者(被保険者)が請求する。一方、代理受領、受領委任については、施術所等が請求する。
患者(被保険者)が請求するよりも、施術所等が請求(代理受領・受領委任)した方が、架空請求や水増し請求が増えるとの指摘があり、療養費制度における課題となっている。
※ 架空請求や水増し請求は、患者が施術所等の請求内容を確認していないことに起因しているとの指摘がある。

 

表5:療養費の請求方法の比較
償還払い
(あはき)
代理受領
(あはき)
受領委任
(柔道整復・あはき)
施術所での患者負担 全額 一部 一部
療養費の請求者 患者(被保険者) 施術所(施術者)または請求代行業者 施術所(施術管理者)
療養費の審査 保険者(一部審査会) 保険者(一部審査会) 審査会(健康保険組合については、保険者または審査会)
地方厚生(支)局の指導監督 なし なし あり
施術所・施術管理者の登録 なし なし あり

 

あはきにおいては、前述したとおり本来償還払いでしたが、患者(被保険者)の利便性のため、保険者が「代理受領」を認め、実質上柔道整復における受領委任と同様の取り扱いが広まっていました。しかし、この「代理受領」では地方厚生局の指導監督、施術所・施術管理者の登録がなく、行政の関与がなく、行政の関与がないために不正が起こる可能性があるという理由で平成31年よりあはき療養費にも受領委任の取り扱いが導入されました。これに伴い、「償還払い」と「受領委任払い」を保険者により選択することとなり、代理受領は廃止となる流れとなっています。
また、同時に同意書の厳格化や償還払いに戻す仕組みなど、不正対策が導入されています。

※あはき療養費の長期・頻回の施術等に関する償還払いに戻せる仕組みの施行日は、「令和3年7月1日」となります。

あはき療養費の長期・頻回の施術等に関する償還払いに戻せる仕組みについて

償還払い(立替払い)

償還払いとは、利用者(患者・加入者)の施術にかかった費用全額を一度窓口でお支払いいただき、利用者(患者・加入者)本人が保険者に申請し、保険負担分(7割・8割・9割)の金額を請求し現金で払い戻しを受ける形となります。
前述したとおり、これを現金給付ともいいます。
また、あはきの施術所で受領委任を取り扱わない保険者は、原則”償還払い”です。

 

償還払い(立替払い)

図1:償還払い(立替払い)

 

受領委任払い(現物給付と同等の取り扱い)

受領委任払いは、施術所が保険者(健保組合等)と受領委任の協定または契約を結び、利用者(患者・加入者)からの委託を受けて「療養費支給申請書(レセプト)」を作成し、利用者からは自己負担金に相当する金額を受け取り、残りを利用者に代わって保険者に療養費を請求するもの。
この取り扱いにより、利用者は現物給付と同様の形で柔道整復師・あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師の施術を受けることができます。

受領委任制度の目的は、「施術者と地方厚生(支)局長および都道府県知事が受領委任の契約を締結することにより、患者の施術料支払や療養費請求手続に係る負担が軽減され、保険者への療養費請求手続が明確化し、必要に応じて地方厚生(支)局および都道府県から施術者や開設者に対して指導監督が行われ、療養費の不正または不当な請求への対応が行われること」です。

 

受領委任払い(現物給付と同等の取り扱い)

図2:受領委任払い(現物給付と同等の取り扱い)

 

代理受領委任払い
(施術所(者)が代理受領をおこなっている場合)

(参考)あはきのみ

代理受領委任払い (施術所(者)が代理受領をおこなっている場合)

図3:代理受領委任払い (施術所(者)が代理受領をおこなっている場合)

 

代理受領委任払い
(請求代行業者が代理受領をおこなっている場合)

(参考)あはきのみ

代理受領委任払い (請求代行業者が代理受領をおこなっている場合)

図4:代理受領委任払い (請求代行業者が代理受領をおこなっている場合)

 

 


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