店舗ルール・マニュアル

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店舗ルール・マニュアルについて

本記事では、治療院(はりきゅう、マッサージ)、整骨院、整体院、美容・エステ・リラクゼーションサロン等における、店舗ルール・マニュアルの作成について説明していきます。

 

この記事は、株式会社リクルートが運営するオウンドメディア「Air レジマガジン」から転載しています。

 

店舗ルールとは

「ルール」とは、規則のことで一定の基準に従ったもので、人の行為などで標準となるものです。
このルールがなかったり、適切に運用されていないことから、本業界では、療養費や自賠責保険の不正請求などの不正行為や、施術に関する顧客とのトラブル、スタッフ間でのトラブル、ハラスメント問題、サービス残業問題、従業員のモチベーション低下による人材の流出や人材不足など、組織存続にも関わる問題が多発しています。
これは、ルールが明確でないことから、運営がそれぞれの従業員の「モラル」に頼ることになり、組織としての統一感が無くなり、また同一人物でも日によって基準がぶれることになり、トラブルが続出する結果につながっていると考えられます。

まずは、ルール・モラル・法律との違い、そしてルール作成によるメリットとデメリットを説明していきます。

ルール、モラル、法の関係について

組織には複数の人間が集まるため、社会活動において安定的に存続する上で一定の秩序が求められます。そしてその秩序を維持するために必要なのが「決まりごと」です。
社会には、大きく以下の3つの「決まりごと」があります。そして、モラル、ルール、法は以下であり、図1のような位置関係といえます。

  1. 「モラル」
    それぞれの人が持つ「人として守るべき道や善悪の判断における普遍的な判断基準」です。
    「モラル」に反する行動をした人物は、社会的罰則はありませんが、「人間性」を疑われたり、「信頼性」を失うことになります。
  2. 「ルール」
    「人が行動する上での約束事、決め事」といえ、組織間の人間が約束し合った内容です。
    モラル同様に社会的罰則はありませんが、ルールはその組織独自のペナルティを課せられる可能性があります。
  3. 「法(法律、法令、条例など)」
    国家権力またはそれに類するものが作るルールで、多くの場合、国家権力による強制力を持つもの。
    法律違反をした場合、「モラル」や「ルール」に反した場合と比べものにならないくらい、社会的制裁として重い罰が与えられることになります。
モラル・ルール・法律の位置関係

図1:モラル・ルール・法の位置関係

 

このことから、モラルは人によって育った環境や経験等が異なることにより、物事の良し悪しを判断する基準に微妙な差が出ることもあります。
そして、組織(店舗)には様々な人間(性別・年齢・雇用形態など)が集まるため、社会活動において安定的に存続する上で一定の秩序が求められます。そのため、その秩序を維持するために必要なのが「決まりごと」であり「ルール」です。
ルールの作成は法律で定められているわけではありませんが、ルールを明確にすることで初めて円滑な店舗運営が実現します。企業理念やビジョン、店舗コンセプトに基づいた意識・考え方で明文化し、ルールとして適切に周知・運用していくことで、従業員が同じ方向性を共有し成長していくことが可能になります。

 

参考

ルールと混同されやすいものとして「マニュアル」や「就業規則」があります。

  • ルールは規則であることに対して、マニュアルとは手引書、取扱説明書です。
  • 就業規則は、10人以上の労働者を雇用する会社に、労働基準法で作成が義務付けられている会社と従業員の間での契約です。就業規則の内容についても、「労働時間や休日・休暇」、「休憩時間」、「入退社時の手続き方法」、「賃金」等、法律で定められていています。

 

メリットとデメリット

ルール(マニュアル)を作成することで、以下のメリットがあります。

  • 人材育成、人材の定着率向上
    ルールがあることで、業務レベルの統一(標準化)や業務の属人化(特定の業務を特定の担当者しか把握していない状況)を解消することで、従業員全体のレベルアップと業務効率化が図れます。
    また、業務の可視化ができるため人材育成や人材の定着率向上につながります。
  • 従業員満足度の向上
    ルールを作成し、労働環境の整備・改善に役立ち、時代に合った働きやすい環境を目指すことができます。また、労使間のトラブル防止にも役立ち、従業員満足度の向上につながります。
  • 顧客および従業員間のトラブル防止
    業務の優先順位、サービス提供に対する考え方、従業員や顧客との接し方、トラブルがおこった際の対応方法、などに対する考え方や価値観などに関しても統一を図ることができます。
    また、管理者の注意指導方法や注意指導の判断基準として活用でき、問題行動の再発防止、規律の乱れ、顧客および従業員間のトラブルを防止する効果があります。
  • 従業員のモチベーション向上 優良人材の採用
    評価・報酬制度や人材育成制度のなどを整備することで、従業員自身が評価基準や育成制度を理解することで、目標を立てることが可能となり、モチベーション向上につながります。
    また、自社の特徴としてPRしていくことで、優良人材の採用につながります。
  • 社会的信用を守れる
    ルールにより、企業コンプライアンス(法令遵守)の強化、労使間のトラブル防止、情報漏洩や不正行為の防止につながります。また、経営理念や方向性に基づいた意識や考え方で作成することで、良い組織文化を形成していくことが可能となります。そして、結果的に社会的信用を守ることができます。

メリットがある一方で、ルール(マニュアル)の作成は次のようなデメリットを生む可能性もあります。

ルールを多く作りすぎてしまうと、ルールに縛られた窮屈な組織になってしまいます。
また、ルールを徹底しすぎると、従業員はその通りに行動するだけになり、自身の頭で考えて行動しなくなってしまいます。そして、同じような考え方や価値観を持つ人が増え、新しい発想やアイデアが生まれにくくなる可能性があります。
そのため、ルールの量や内容と従業員の裁量を考え、新しい発想やアイデアが生まれにくくならないための工夫が必要です。

 

作成におけるルールの種類と注意点

作成すべきルール(マニュアル)は多くありますが、カテゴリを大きく以下の3項目に分けて、主な項目を示します。

  1. 業務に関するルール
  2. 労働環境に関するルール
  3. 組織・人事・勤務に関するルール

ルールは、一般的に性悪説(人間にはモラルはあるのだが、間違いを起こすもの)の観点から設計することで、組織はもちろん従業員を守ることにも繋がります。
また、会社の方向性に沿うと同時に、従業員が納得する内容にすることが重要です。

ルール作成においては、次の点に注意しましょう。

  • 自社の経営理念を整理する
    経営理念とルールに一貫性がなければ、会社として方向性は定まりません。
  • 社長やリーダーが独断でつくらない
    価値観の押し付けや偏りが生まれ、社員の納得を得られない可能性が高くなります。「共通目的が何か」という視点で作成することに気をつける必要があります。
  • ルールは全ての従業員に適用する
    社長や幹部・店長などは率先して守らなければ運用できません。
  • シンプルにする
    項目をあまり多くせず、分かりやすく簡潔にすることで、守ってもらえるようにします。
  • 周知する
    作成したら、控室に掲示、従業員に紙で配布やクラウド共有などをおこない浸透させていきます。

 

業務関連のルール

店舗では、施術業務以外にも、受付業務や顧客対応など様々な業務があります。

業務に関するルールは、マニュアルや作業リスト、トークスクリプト、などに関する手順を作成し明文化および可視化していきます。

特に施術や機器の取り扱いは図表・写真または動画などで分かりやすくすることで、経験の浅い従業員でも一定のレベルで業務を行うことが可能となり、業務レベルの統一が図れます。これにより、優良人材の採用・育成や人材の定着率向上につながります。

作成する主な業務関連のルール事項は以下の通りです。

施術

  • 各種検査(視診、問診、触診、打診、聴診)
  • インフォームドコンセント(症状と施術の説明と同意)
  • 施術、施術後の状態確認
  • 日常生活指導と今後のスケジュール提示
  • カルテの記録
  • 機器の取り扱い・管理 など

受付

  • 来退店時、待合室における対応
  • 問診表、診察券作成・管理、カルテ作成・管理
  • 顧客情報入力、予約管理
  • レジ開け・レジ締め、会計時のダブルチェック など

顧客対応

  • クレーム、トラブルが発生した時の対応に関すること
  • 電話対応(傾聴、確認等)に関すること
  • 顧客への報告、連絡に関すること
  • 言葉遣いやあいさつ・声かけの徹底
  • お出迎え、ご案内、お会計、お見送り

その他

  • 開店準備・閉店作業
  • 販促に関する業務
  • 在庫管理(施術に付随するもの、物販商品・備品など)
  • レセプト業務
  • その他:清掃、洗濯、機器管理、店舗外の看板・ウェルカムボード・のぼり・チラシ等の管理 など

 

労働環境に関するルール

従業員間、施設関連、衛生面で分類し、明文化することで、従業員満足度の向上や顧客および従業員間のトラブル防止につなげていきます。

作成する主な労働環境に関するルール事項は以下の通りです。

従業員間

  • 責任者の指示に従うこと
  • 報告・連絡・相談について
  • 共通言語、コミュニケーションルール
  • 従業員同士の声かけ
  • スタッフ間の呼び方
  • 勤務時の無駄話  など

施設関連

  • 備品や経費の取り扱い注意事項
  • 控室、更衣室、共同スペース、トイレなどの管理注意事項
  • 休憩時の注意事項
  • 私物(荷物・貴重品)の保管
  • 携帯電話に関する事項と使用可能場所
  • 喫煙に関する事項と喫煙可能な場所
  • 金銭・備品の取り扱い注意事項
  • 節電・節水の呼びかけ
  • 出勤・退勤や外出時における近隣商圏での注意事項 など

衛生面(身だしなみや意識等)

  • 服装(ユニフォーム・靴・名札など)
  • 髪の色や長さ、髪型、まとめ方
  • 化粧、マニキュア(爪の長さ)
  • ピアス、ネックレス、指輪、時計、などの飾り
  • 男性の髭
  • 香水 など

 

組織・人事・勤務に関するルール

組織、人事、勤務のルールを明文化することで、情報漏洩、不正行為、トラブル防止によるコンプライアンスの強化や従業員のモチベーションを高める仕組みを作り上げることができます。

作成する主な組織・人事・勤務に関するルール事項は以下の通りです。

組織に関するルール

  • CSR(社会的責任)やコンプライアンス
  • 情報漏洩や不正(個人情報の取り扱い、マニュアル等の守秘義務)
  • SNS等による情報発信の取り扱い
  • 事故防止や緊急災害時の対応 など

人事に関するルール

  • 評価・報酬制度(能力評価、情意評価、成果評価、コンピテンシー評価等)
  • 教育・研修(新入社員研修、管理職員研修、担当部署別研修、業務別研修、ハラスメント研修等)
  • 人材育成制度(メンター制度、OJT制度、資格取得制度等) など

勤務に関するルール

  • シフト関連(シフトの交代、シフト提出の期日)
  • 勤務時間(始業・終業時刻、休憩時間など)
  • 勤怠ルール(遅刻・早退・欠勤手続きなど) など

 

店舗ルール・マニュアルをつくろう

今回は、店舗ルール・マニュアルの概念とその必要性、そして作成すべきルールの種類について説明しました。

ルール・マニュアルの役割は、経営理念やビジョンを体現するためであり、法律、業界ルール等の遵守のため(コンプライアンスの遵守)、内部管理のためであるといえます。

そして、企業が永続的に継続し、「付加価値」を作り出していくには、常に人材の育成、ノウハウの継承、業務の効率性や生産性、そして収益性の向上を図っていかなければなりません。その為にもルール・マニュアルが重要になってくるのではないでしょうか。

本記事が、皆さまの店舗ルール・マニュアルに対しての取り組むきっかけとなれば幸いです。

 

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